「え、リリー内浦に来たことあったの!?」
    「うん、かなり前のことなんだけどね」

    それはラブライブ地区予選を控えたある夏の日のこと。午後に用事がある人が多いからと練習が午前中で終わり、特に用事のなかった私、桜内梨子は、紆余曲折あって恋人になった津島善子ちゃん、通称よっちゃんと一緒にデートと洒落込んでいました。恋人になった経緯はまあ、きっとどこかで語ることもあるでしょう。

    「リリーこっちの地理とかさっぱりだったから、転校してきて初めて来たんだとずっと思ってたわ」
    リリー、というのはよっちゃん専用の私のあだ名です。よっちゃん曰く『リトルデーモンネーム』だそうですが、まあそれは置いておいて。
    「うん、私もそうだとずっと思ってたんだけどね、つい最近思い出したんだ、その時のこと」
    「へぇ~、気になるわね……リリー、その話詳しく!」
    「うん、いいよ。あれはまだ私が小学生で、ピアノを始めたばっかりの頃……」



    あの頃私はピアノを習い始めたばっかりで。最初は楽しくて仕方なかったんだけど、習い事の常として、何回やってもどうしても上手くできない箇所が出てきてて。そんな時ママが、気分転換も兼ねて、って旅行に行こうって言い出して。
    そうしてやってきたのがここ、内浦。自然がいっぱいで、海がキラキラ輝いてて……とても綺麗だったのはよく覚えてる。

    で、それがあまりにも綺麗だったからかな、ママの目を盗んでこっそり探検に出かけちゃって。でもいくら田舎で見通しがいいとは言ってもやっぱり知らない土地、すぐに迷っちゃって。不安で、思わず泣いちゃって。そんな時、出会ったんです。
    「あら、どうしたのあなた?」
    「え…?」
    よくわからないポーズをビシッと決める、とても可愛い女の子に。

    「で、なにがあったの?」
    泣き止むまで待ってくれたその子は、優しくそう聞いてくれました。だから私も、初対面だという緊張はあまりなく、旅行に来ることになった理由、そして今迷子になってしまっていることも話してしまいました。
    「そっか……安心しなさい、私が案内してあげるわ!」
    「えっ、いいの…?」
    「当たり前でしょ!任せておきなさい!」
    「あ、ありがとう……」
    そんなわけで、その女の子に道案内をしてもらうことになりました……が。
    道案内は何処へやら、やれこっちのアイスクリーム屋が美味しいだの、こっちの景色が綺麗だのと、いろいろなところを連れまわされました。
    最初はオロオロしつつもついていくしかなかった私でしたが、途中からは楽しくて、いつの間にか不安な気持ちはどこかへ消えていて。
    日も暮れてきた頃、その女の子が、
    「ごめんね、連れまわしちゃって」
    「ううん、すっごい楽しかったから大丈夫!」
    「そっか。よかったわ。でもこれで、いい気分転換になったんじゃない?」
    「えっ……もしかしてそのために?」
    「ええそうよ!元気なさそうだったから、楽しいとこにつれていけば元気になるかなって思ったの」
    びっくりしました。初めて会った私のためにそこまでしてくれるなんて思わなかったから。今思い返せばとっても子供らしい方法だったけど、でも、それがすごい嬉しくて。
    「ピアノがうまく弾けない、って言ってたけど、だからどうしたっていうのよ。ピアノが好きなんでしょ?だったらそれでいいのよ!うまくいかなくっても、楽しむことを忘れちゃダメなのよ!」
    「……!」
    その言葉は私には衝撃的で。そのときピアノをやめずにいられたのはこの言葉のおかげだったりします。
    「それに、こんなにかわいらしいあなたが弾くのなら、絶対綺麗な音色に決まってるわ!そんな素敵なものをなくしちゃうのはもったいないわ!そうよ、私があなたの最初のファンになってあげるわ!」

    そのあと、私はちゃんとママのところに案内してもらって、ママにこっぴどく怒られて、でもその子が庇ってくれて。その子は結局名乗らないで去って行ってしまいました。
    そのあと2日ほど滞在しましたが、それっきりその子には会えませんでした。でも、その子のおかげで、私はピアノを前よりも好きになって、それからピアノを止めることはありませんでした。まあ、スランプにはなっちゃいましたが、それはこっちに来てみんなのおかげで乗り越えられましたし。



    そこまで話したところでよっちゃんの方を見ると、もう真っ赤になっちゃってました。
    「ね、ねえリリー?一つ聞きたいんだけど……」
    「なあに、よっちゃん?」
    「もしかしなくても、その女の子って……」
    「うん、よっちゃんだよ?」
    「やっぱりーー!!!」
    あはは、よっちゃん大絶叫!かわいいなあ、ほんとに。
    「そ、そういえばそんなこともあったわ……リリーの話聞くまで忘れてたけど……なにを私はそんなに偉そうにー!!」
    頭を抱えて悶えてます。かわいい。
    「でも、よっちゃんのあの言葉で、私は救われたんだよ?大袈裟じゃなく、ね」
    「そ、そう……なら、よかった、わ……」
    「もう、いつまで照れてるのよ」
    「だ、だって……」
    「気にしないの。よっちゃんが励ましてくれたから、私たちはこうして再会できたんだよ?よっちゃんのおかげでピアノをやめないで済んで、だから私はAqoursには入って、よっちゃんに会えたんだから。ね?」
    「そ、そうね……まさかリリーと会ってたなんて思わなかったけど、結果オーライだわ!きっと私たちは結ばれる運命だったのね!」
    よっちゃんはときどきこんなふうに恥ずかしいことをさらっと言います。照れ屋さんのくせに……
    「ふふ、そうだね。ね、よっちゃん」
    「なによ、リリ……」
    その言葉を遮って私はよっちゃんの唇に自分の唇を重ねます。
    「んっ……リリー……」
    「よっちゃん……大好きよ」





    ……そのあとばっちり千歌ちゃんに目撃されてて散々いじられるのだけど、それはまた別のお話。


    2018/04/04(水) ラブライブ!サンシャイン‼二次創作 コメント(0)
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