ある休日の朝、テレビを見ながらリンネが言う。
フーカは驚いた顔をしつつもそれにこたえる。
「確かにのう……まるでわしが喋っとるみたいじゃ」
テレビに映るのはキラ星シエル。キラキラ☆プリキュアアラモードというアニメの登場人物である。今日は二人そろって珍しく朝練もなく、仲良くアニメを見ていたのである。
『夢と希望をレッツ・ラ・まぜまぜ!キュアパルフェ、できあがり!』
「あっ、変身したよ!」
シエルはプリキュアの一員であり、キュアパルフェに変身する。ちょうど見ていたのは初めて変身する回であった。
「キュアパルフェ……私服の時から思っとったが、随分とひらひらして派手な服じゃのう」
「そうだねえ……声はすごい似てるけど、服装はフーちゃんと全然違うよね」
フーカは普段着も戦闘時もスポーティな格好を好む。対するシエル/キュアパルフェはひらひらとした服を着ている。変身してからはなおさらである。
「ねえフーちゃん、やっぱりフーちゃんもこういう服着てみようよ」
リンネは前々からフーカに、普段自分が着ているような可愛らしい服を着てほしいとお願いしていた。だがそのたび断られてきている。
「じゃから何度も言っとるように、わしにはそういう服は似合わんのじゃ。そういう可愛らしい服はリンネが着るほうが似合っとるし可愛い」
毎回この調子で断られ、その都度しょんぼり気味のリンネ。フーカにかわいいと言われて嬉しくはあるが、着てもらえないのは残念である。
「むむむ……じゃあフーちゃん!私と腕相撲で勝負しよ!私が勝ったら着てもらうよ!」
「腕相撲か……いいじゃろ。わしも最近さらにパワーがついた。リンネにだって負けん!」
(乗ってくれた……!)
リンネは密かに喜んだ。これで勝てば、フーちゃんにかわいい格好をしてもらえる。その嬉しさを表情に出さないよう必死に抑えなくてはいけないくらい、リンネは喜んでいた。
(絶対に負けん……!)
フーカは燃えていた。リンネとはこれまでも何度か腕試しと称して腕相撲をしていた。だが今まで1度たりとも勝てたことはない。しかし今回は自信があった。つい先日、アインハルトと腕相撲して勝利したからである。パワー型のアインハルトに勝てた、その事実がフーカに自信を与えていた。
「「いざ、勝負!!」」
「なぜじゃ、なぜ勝てない…!」
結論から言えばフーカは敗北した。別に大惨敗したわけではない。むしろかなりの接戦であった。しかしフーカにかわいい格好をさせたいというリンネの想いがリンネに通常以上の力を発揮させたのだ。……人の欲望とはげに恐ろしい。
「さあフーちゃん、約束だよ!」
「くっ、仕方ない……約束した以上破るわけにはいかんしのぉ……」
「じゃあフーちゃん、着てほしい服持ってくるから待っててね!」
そう言い残して服を取りに行くリンネ。待っているフーカはどんな服を着せられるのか気が気でない。
しばらくして服を持って帰ってきたリンネ。手に持っていたのは…………
「リンネ、それは……」
「うん、キュアパルフェの衣装だよ。これ着て決めゼリフ言ってほしいなって……せっかく声もそっくりなんだし、ね?」
「うぐっ……着るだけじゃだめかの……?」
「ダーメ!ちゃんと決めゼリフもね!」
フーカは敗者である。故にフーカに逆らうという選択肢はなかった。もとよりリンネの頼み、いつかは着てあげようかな、と思っていた矢先ではあった。いい機会なのかもしれない。そう自分に言い聞かせつつ衣装を受け取る。
「き、着替えたぞリンネ……」
少しして、フーカは着替えて戻ってきた。
「わあっ、フーちゃんかわいい!すっごい似合ってる!!」
やはり元々スタイルもよく可愛いからかその衣装はよく似合っていた。フーカの顔は既に熱が限界近くまで高まっていたが。しかしまだ本番はこれからである。
「じゃあフーちゃん、約束の……ね?」
「わ、わかった……」
リンネはカメラを向ける。かわいいフーカのさらにかわいいシーンを決して逃すまいとしている。
「ふぅ……」
顔が赤くなって仕方ない。ただでさえ可愛い服を着るのは恥ずかしいというのに、こんなにもフリフリの衣装なんて……いくら似合っていると言われようと恥ずかしいものは恥ずかしい。が、やるしかない。覚悟を決める。
「夢と希望をレッツ・ラ・まぜまぜ!キュアパルフェ、できあがり!」
ビシッとポーズも決め、先刻アニメで見た通りのセリフを発する。顔は熟れたトマトのようになっていたが。そんな様子をリンネはひたすらに記録していた。
「キャー!フーちゃんかわいい!!こっち見てー!」
まるでアイドルのおっかけのようなテンションになっていた。
「はぁ、酷い目にあった……」
「まあまあ、可愛かったよ、フーちゃん♪」
項垂れるフーカの頭を撫でながら笑顔でそう言うリンネ。本心からの言葉だと分かっているのですこし嬉しいフーカ。嬉しそうなリンネを見ることができたのはもっと嬉しかった。
「でも、嫌だったならごめんね……?」
ふと、申し訳なさそうにそう言ってくるリンネ。いつまでも項垂れたフーカを見て、本当に嫌な思いをさせてしまったのではないか不安になっている。フーカもそれを察し、答える。
「確かに恥ずかしかったが……別に嫌ではなかったぞ。その……リンネに可愛いと言われて嫌な気はせんからな。」
「ほ、ほんとに……?」
「ああ、じゃからそう気にするな。……もっと大人しめの服なら、また可愛らしいのも着てあげるから……」
目を逸らし頬を赤く染めながら呟くフーカ。消え入るような小さな声であったがきちんとリンネの耳には届いた。途端、ぱあっと明るい表情を浮かべる。そんな単純さに苦笑しつつ、リンネの耳元で囁く。
「大好きなリンネの頼みじゃ、当然じゃろ?」
途端、食べ頃のりんごのように真っ赤になるリンネ。今度はフーカがリンネの頭を撫でる。真っ赤になった顔を隠すようにフーカの胸元に顔を埋めるリンネ。そのまま呟く。
「ありがと……私も大好きだよっ」
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